【薬の副作用】遅発性ジスキネジア:なぜ筋肉が勝手に動くのか?
長期服薬で起こる不随意運動
知っておきたい脳のメカニズムと予防法
この記事について
本記事は「薬の副作用で口や手足が勝手に動く?知っておきたいこと」の続編です。以前の記事では遅発性ジスキネジアの概要や症状についてご紹介しましたが、今回は「なぜこのような症状が起こるのか」という生理学的メカニズムに焦点を当てて、より詳しく解説します。
以前の記事でお伝えした通り、「薬を飲んでいたら、口が勝手に動くようになった」「舌が意図せず出てしまう」といった症状は、遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia)と呼ばれる薬剤の副作用による運動障害です。
では、なぜこのような不随意運動(自分の意思とは関係なく起こる動き)が生じるのでしょうか?
今回は、脳の中で実際に何が起きているのか、その生理学的なメカニズムをわかりやすく解説します。
目次

遅発性ジスキネジアは、主に抗精神病薬を長期間使用した後に現れる運動障害です。
「遅発性」という名前の通り、薬を飲み始めてすぐではなく、数ヶ月から数年後に発症することが特徴です。
🔸主な症状
- 口をもぐもぐさせる咀嚼様運動
- 舌が出たり引っ込んだりする
- 口をすぼめる動き
- 顔をしかめる表情
- 手足や体幹の不随意運動
これらの動きは自分の意思でコントロールできず、繰り返し現れます。

遅発性ジスキネジアを理解するには、脳の「運動制御システム」について知る必要があります。
脳の運動制御センター:大脳基底核
私たちの運動は、脳のさまざまな部分が協調して制御しています。
その中でも「大脳基底核」という部分が、運動の開始、調節、抑制において重要な役割を果たしています。
🔸大脳基底核の中でも特に重要なのが
- 線条体:運動情報を受け取り、処理する中継地点
- 黒質:ドパミンという神経伝達物質を作り出し、線条体に送る部分
🔸ドパミンという「メッセンジャー」
ドパミンは、脳内で情報を伝える化学物質(神経伝達物質)の一つです。
黒質から線条体へドパミンが送られることで、運動が適切に制御されています。
イメージとしては、ドパミンが「運動のアクセルとブレーキ」を調整する役割を担っていると考えてください。
抗精神病薬は、統合失調症、双極性障害、うつ病、認知症に伴う症状などの治療に使われる重要な薬です。
これらの薬の多くは、線条体にある「ドパミン受容体(ドパミンを受け取る部分)」をブロックすることで効果を発揮します。
| 正常な状態 | 黒質からのドパミン → 線条体の受容体にキャッチ → 運動が適切に調整される |
| 薬を飲んでいる状態 | 黒質からのドパミン → 薬が受容体をブロック → ドパミンが受容体に届かない この状態が続くと、脳は「ドパミンが足りない」と判断します。 |

ここからが、遅発性ジスキネジアの核心部分です。
ステップ1:受容体の「過敏化」
薬によってドパミン受容体が長期間ブロックされ続けると、脳は以下のような代償反応を起こします。
- 受容体の数を増やす(アップレギュレーション)
- 受容体の感度を高める(過感受性)
これは、聞こえにくい音を聞くために耳をそばだてるようなもので、脳が「ドパミン不足」に対応しようとする反応です。
ステップ2:薬の減量・中止後の「過剰反応」
薬を減らしたり中止したりすると、ブロックが解除されます。
すると:
- 過敏になった受容体
- 正常量のドパミン
結果:相対的にドパミンが「過剰」な状態に
これは、小さな音に合わせて耳をそばだてていたところに、突然大きな音が鳴り響くような状況です。
ステップ3:運動制御システムの崩壊
線条体では、運動を促進する経路(直接路)と抑制する経路(間接路)のバランスで運動が制御されています。
ドパミンの過剰作用により:
- 直接路が過剰に活性化(運動促進)
- 間接路の機能低下(運動抑制が効かない)
結果:制御できない運動が出現
さらに、ドパミン以外の神経伝達物質(GABA、アセチルコリンなど)のバランスも崩れ、複雑な神経回路の機能異常が起こります。

遅発性ジスキネジアでは、特に口周囲、舌、顔面に症状が現れやすいことが知られています。
これには複数の理由があります。
1. 線条体のドパミン受容体密度
線条体は脳内で最もドパミン受容体の密度が高い部位です。
このため:
・抗精神病薬による受容体遮断の影響を最も強く受ける
・過感受性の変化も最も顕著に現れる
・結果として運動症状(ジスキネジア)として表面化しやすい
つまり、線条体は薬剤の影響を受けやすい「最前線」であり、ドパミン系の異常が最も明確に運動症状として現れる場所なのです。
2. 顔面・口腔領域の特殊性
線条体の中でも、顔や口を制御する領域が特に薬剤の影響を受けやすいと考えられています。
さらに:
・口や顔の筋肉は非常に繊細な制御を必要とする
・わずかな神経活動の異常でも目立ちやすい
・常に動いている部分なので、異常が観察されやすい
3. なぜ線条体で最も問題になるのか
実は、受容体の過感受性は線条体以外の脳部位(中脳辺縁系(報酬系と呼ばれるドパミン経路)など)でも起こっている可能性があります。
しかし:
・線条体での変化が最も明確な症状として現れる
・他の部位での過感受性は、元の精神疾患の症状と区別が困難
・運動症状は客観的に観察・評価しやすい
このため、遅発性ジスキネジアは主に「運動障害」として認識されているのです。
一度確立すると元に戻りにくい

遅発性ジスキネジアの最も深刻な問題は、一度発症すると不可逆的(元に戻らない)になることがあるという点です。
薬を中止しても症状が続く理由
- 受容体の変化が固定化される
- 神経回路そのものが再構築される
- 長期的な神経可塑性の変化
パーキンソン病との対比
興味深いことに、遅発性ジスキネジアとパーキンソン病は、同じドパミン系の異常でありながら正反対の病態です。
| 遅発性ジスキネジア | パーキンソン病 | |
|---|---|---|
| ドパミンの状態 | 相対的に過剰 | 不足 |
| 主な症状 | 過剰な不随意運動 | 動きが少ない(寡動) |
| 原因 | 薬剤性 | 神経変性 |
この対比は、ドパミン系のバランスがいかに重要かを示しています。
薬剤性パーキンソニズムという「もう一つの副作用」

実は、抗精神病薬には遅発性ジスキネジアとは別に、薬剤性パーキンソニズム(drug-induced parkinsonism)という副作用もあります。
こちらは遅発性ジスキネジアとは逆に、ドパミンが不足した状態になることで起こります。
| 薬剤性パーキンソニズムの特徴 |
|---|
|
興味深いことに、同じ患者さんが遅発性ジスキネジアと薬剤性パーキンソニズムの両方を
発症することもあります。これは同じドパミン遮断薬が、異なるメカニズムを通じて、相反する症状を引き起こすためです。
次回予告
次回の記事では、この「薬剤性パーキンソニズム」について詳しく解説します。遅発性ジスキネジアとどう違うのか、なぜ起こるのか、どのように対処すればよいのか。
ドパミン系の「もう一つの顔」をご紹介します。
予防が最も重要
遅発性ジスキネジアは一度発症すると治療が困難なため、予防が極めて重要です。
- 必要最小限の薬剤使用:必要な場合のみ、最小有効量を使用
- 定期的な評価:運動症状の早期発見
- リスクの高い患者への注意:高齢者、女性、長期使用者
- より安全な薬剤の選択:非定型抗精神病薬は定型薬よりリスクが低い傾向
発症してしまった場合
- 原因薬剤の減量・中止を検討(ただし精神症状の悪化に注意)
- VMAT2阻害薬などの治療薬の使用
- リハビリテーション
ただし、治療効果は限定的であることが多く、やはり予防が最も重要です。

遅発性ジスキネジアにおける不随意運動は、以下のような生理学的メカニズムで生じます。
- 抗精神病薬がドパミン受容体を長期間ブロック
- 脳が代償として受容体を増やし、感度を上げる
- 薬の減量・中止後、過敏になった受容体に正常量のドパミンが作用
- 相対的なドパミン過剰状態が生じる
- 運動制御システムのバランスが崩れる
- 制御できない不随意運動が出現
このメカニズムを理解することは、予防の重要性を認識し、適切な薬剤管理を行うために不可欠です。
抗精神病薬は多くの患者さんにとって必要不可欠な薬ですが、その使用には常に利益とリスクのバランスを考慮する必要があります。
医師との十分なコミュニケーションのもと、適切な治療を受けることが大切です。
注意事項:この記事は教育目的の情報提供です。症状がある方や薬の変更を検討される方は、必ず主治医にご相談ください。自己判断での薬の中止は危険です。
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▶ 薬剤性パーキンソニズム:動きが遅くなる副作用のメカニズム
同じ薬が引き起こす「正反対の副作用」について詳しく解説します。
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