原因不明な不調は、日光浴不足が原因?―日光が肌に贈る”隠れた守護物質”の正体

「対策は万全なのに、なんだか調子が悪い」その理由

今年の夏も、日焼け止めをこまめに塗り直し、日傘や長袖で徹底的に紫外線をブロックした方は多いのではないでしょうか。
あるいは、連日の猛暑警戒アラートに、そもそも外出そのものを控えていた方も少なくないはずです。

肌のシミやシワを防ぐという意味では、どちらも間違った選択ではありません。

けれど「紫外線=百害あって一利なし」と考えて日光そのものから距離を置いてしまうと、実は私たちの体にとって想像以上に大切な”恵み”まで一緒に手放してしまっている可能性があります。

その代表格が「ビタミンD」であることは、よく知られるようになってきました。

しかし、日光浴によって私たちの肌の中でつくられているのは、実はビタミンDだけではないのです。

目 次

紫外線が生み出す、5〜10種類の”光分解生成物”

医師1つ

アメリカの著名なビタミンD研究者、マイケル・F・ホリック博士の著書には、こんな記述があります。

「日光を浴びた時、人の体内ではビタミンDだけでなく、5〜10種類もの光分解生成物がつくられている」

一体どういうことでしょうか。順を追って見ていきましょう。

紫外線(UVB)が肌に当たると、まず「プレビタミンD3」という前駆体がつくられ、これが体温によってゆっくりとビタミンD3へと変化していきます。

ここまでは、多くの方がご存じの「日光でビタミンDができる」というプロセスです。

 補足:ビタミンD生成プロセス

VD生成プロセス表皮の基底層・有棘層にあるケラチノサイト(角化細胞)の細胞膜には、コレステロールの前駆体である「7-デヒドロコレステロール」が存在しています。

紫外線(UVB)がこの分子に当たると、まず「プレビタミンD3」という前駆体がつくられ、これが体温によってゆっくりとビタミンD3へと変化していきます。

ところが、UVBを浴び続けると、このプレビタミンD3自体やできあがったビタミンD3が、さらに紫外線によって分解され、次々と姿を変えていきます。

プレビタミンD3から:ルミステロール、タキステロール
ビタミンD3から:5,6-トランスビタミンD3、スプラステロールI・II

さらに、立体異性体や側鎖の短い誘導体まで含めると、少なくとも5〜10種類以上の異なる光生成物が肌の上で生み出されていることが確認されています。

VD生成プロセス(光分解)

なぜこんな物質がつくられるのか?―体に備わった”安全弁”

?マークの女性

食事やサプリメントでビタミンDを大量に摂りすぎると、血中カルシウム濃度が上がりすぎる「ビタミンD中毒」を起こす危険があります。

ところが、「どれだけ日光を浴びても、日光浴によるビタミンD中毒は起こらない」という有名な人体のメカニズムがあります。

その理由が、まさにこの光分解生成物です。

肌の中でつくられたビタミンDやその前駆体は、過剰になると自動的に「カルシウム代謝を起こさない不活発な物質」へと変換されます。

プレビタミンD3はルミステロールやタキステロールへと姿を変えますが、これは可逆的な反応で、紫外線が弱まれば再びプレビタミンD3に戻ることができる”一時退避”のような仕組みです。

一方、すでにできたビタミンD3自体も、浴び続けるとスプラステロールなどの物質へと不可逆的に変化します。

これらはカルシウム代謝にはほとんど関与しなくなりますが、完全に”無職”になるわけではなく、肌の角化細胞の増殖を抑えるなど、別の役割を担っている可能性が研究で示されています。

つまり、過剰生成を防ぐ天然の”セーフティバルブ(安全弁)”として機能しているのです。

ただの”残りカス”ではなかった―近年わかってきた独自の働き

ポイント

かつては「ビタミンDの余りカス」と考えられていたこれらの光生成物ですが、皮膚内分泌学の研究が進むにつれて、それ自体が独自のシグナルを持ち、肌や体を守っていることがわかってきました。

中でも研究が進んでいるのが「ルミステロール」とその代謝物(ヒドロキシ誘導体)です。

① 紫外線ダメージのDNA修復・細胞保護

強い紫外線を浴びると、肌細胞のDNAに傷がつき、光老化や皮膚がんの原因になります。

ルミステロールの誘導体には、この傷ついたDNAの修復を促進し、細胞死(アポトーシス)を防ぐ作用があることがわかっています。

「日光が引き起こすダメージを、日光によってつくられた物質が同時に和らげている」という、非常によくできた防御システムです。

UVBダメージ

② 強力な抗酸化・抗炎症作用

紫外線を浴びると肌の中で活性酸素(ROS)が発生し、炎症の原因になります。

ルミステロール代謝物は、体内の抗酸化スイッチ「Nrf2」をオンにし、活性酸素を抑え込んで炎症(赤みや腫れなど)を和らげることが示されています。

UVBダメージにnrf2

Nrf2とは? 体に備わった”抗酸化スイッチ”

Nrf2(エヌアールエフツー)は、細胞の中で抗酸化・解毒酵素をまとめて作動させる”司令塔”のような存在です。

普段はKeap1というタンパク質に捕まえられて分解されていますが、紫外線などで活性酸素が発生すると、Keap1から解放されて核の中へ移動。

そこでDNAの特定領域(抗酸化応答配列)に結合し、活性酸素を消し去るための酵素群を一気につくらせます。

つまりルミステロール代謝物がNrf2を活性化するというのは、「活性酸素を直接消す」だけでなく、「体自身の抗酸化酵素工場を稼働させるスイッチを押す」という、一段階踏み込んだ防御反応だといえます。

③ 血液に乗って全身を巡る

全身の血管以前は「肌の角質と一緒に剥がれ落ちて終わり」と考えられていましたが、近年の分析で、ルミステロールは肌から血液中へ送られ、全身を巡っていることが確認されました。

皮膚以外の組織や免疫細胞の受容体(VDR、RORなど)にも結合し、過剰な免疫応答を抑える働きが見つかっています。

 

RORとは? VDRとは違うもう一つの入り口

RORは「レチノイン酸受容体関連オーファン受容体」の略で、VDRと同じ核内受容体の仲間です。

VDRが主にカルシウム代謝や骨の調整を担うのに対し、RORは免疫細胞の分化や概日リズム(体内時計)の調整など、また別の役割を持っています。

特にRORγは、炎症に関わる免疫細胞「Th17細胞」の働きを左右する受容体として知られており、ルミステロールなどの光分解生成物がここに結合することで、過剰な炎症シグナルにブレーキがかかると考えられています。

④ カルシウムを上げすぎない安心感

ビタミンDを大量に摂ると高カルシウム血症のリスクがありますが、ルミステロールなどの光生成物はカルシウム代謝をほとんど乱しません。

そのため「高カルシウム血症を起こさずに、抗炎症・抗酸化作用だけを安全に発揮できる成分」として、医療やスキンケア分野での応用が期待されています。

「対策」か「回避」かで、失うものが変わる

日傘

ここで大切なのは、日焼け止めそのものが悪者だ、ということではありません。

問題は「日照時間そのものが極端に減ってしまうこと」です。

日本国内のデータを見ても、この点は無視できません。

国立成育医療研究センターが新型コロナ流行下で行った調査では、長期間の屋内生活によって医療従事者にビタミンD欠乏が顕著に見られ、骨代謝の低下(骨刺激不足)や免疫力低下との関連が懸念されると報告されています。

また、50歳以上の日本人女性を対象にした研究では、血中ビタミンD濃度が10ng/mL未満の方の骨折リスクは、30ng/mLの方の4倍以上にのぼるというデータもあります。

日焼け止めをこまめに塗り直すことと、真夏の炎天下を長時間出歩くことは、もちろん別問題です。

ただ、「日焼け対策」の名のもとに外出そのものを避け、日照時間そのものが大きく削られてしまっているとしたら、肌を守っているつもりが、DNA修復や抗炎症といった”もう一つの恵み”まで遠ざけてしまっているかもしれません。

アトピー性皮膚炎と海水浴の関係

「アトピー性皮膚炎の人が海水浴に行くと調子が良くなる」という話を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。

この昔からの言い伝えには、実は「海水(塩分・ミネラル)」と「日光(紫外線・光分解生成物)」という2つの要素が関わっていると考えられています。

海水の塩分やミネラルには、肌荒れの原因菌である黄色ブドウ球菌の繁殖を抑える働きがあります。それに加えて、適度な紫外線を浴びることでルミステロール代謝物などがつくられ、核内受容体(RORα/γ、VDRなど)を介して過剰な免疫反応(IL-4、IL-13など)にブレーキがかかり、肌のバリア機能に必要なタンパク質(フィラグリンなど)の生成も促されます。

皮膚科で行われる「ナローバンドUVB療法」は、まさにこの日光の効果を人工的に再現した治療法です。海水浴で調子が良くなる大きな要因のひとつは、この光線療法と同じ現象が全身の肌で自然に起きていたからだと考えられています(※ただし強い日焼けや海水中の雑菌による刺激で悪化するケースもあるため、あくまで適度な範囲での話です)。

まとめ

まとめ

  1. 日光を浴びると、ビタミンDだけでなく5〜10種類の光分解生成物(ルミステロールなど)がつくられる
  2. これらはビタミンD中毒を防ぐ”安全弁”であると同時に、DNA修復・抗酸化・抗炎症という独自の作用を持つことが近年わかってきた
  3. 「日焼け対策」自体は問題ないが、日照時間そのものを極端に減らしてしまうと、こうした恵みごと失うことになりかねない

次回Part 2では、日光浴が血流や血圧、自律神経にどう影響しているのかを掘り下げていきます。


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